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仙台高等裁判所 昭和25年(ナ)3号 判決

原告 星久一 外一名

被告 福島県選挙管理委員会

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の連帶負担とする。

二、請求の趣旨

原告等は「昭和二十四年八月十八日執行された福島縣南会津郡館岩村農地委員会委員選挙における当選の効力に対し同村選挙管理委員会が同年八月三十日した決定につき同年十一月二十一日被告委員会がした右決定を取り消す旨の裁決はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

三、事  実

一、原告星久一は昭和二十四年八月十八日執行された福島縣南会津郡館岩村農地委員会委員の選挙における選挙人、原告星甫助は候補者であるが、同選挙において選挙会は最下位の当選者を決するに当り、候補者阿久津泰次および星甫助の得票を各九十四票の同数と算定し、くじにより原告星甫助を当選者、阿久津泰次を落選者と定めたのである。そこで選挙人である訴外芳賀輝久は右選挙の当選人である原告星甫助の当選の効力に関し、同年八月二十五日館岩村選挙管理委員会に異議を申し立て、その理由とするところは右選挙において選挙会が無効投票として扱つた「一、泰次」、「阿久津大次」と記載された二票(乙第一、二号証)はいずれも阿久津泰次の有効投票であるから、これを同人の得票九十四票に加算すべきであり、一方原告星甫助の有効得票とされた九十四票中には「HOシHOスKO」とローマ字と片仮名とを交互に記載したもの一票がありこの一票は無効とみるべきであるから原告星甫助の得票中から除外しなければならないというのであつたが、同村選挙管理委員会は右異議申立を理由なしとして、同月三十日異議申立却下の決定をした。右訴外人はこれを不服として更に同年九月二十三日被告委員会に訴願したところ、被告委員会は訴願人の主張中「HOシHOスKO」の一票を無効として原告星甫助の得票九十四票から除外すべきであるとの点は理由なしとして排斥したが、選挙会が無効投票とした前掲の二票は阿久津泰次の有効投票であるとして同人の得票を合計九十六票と算定し、原告星甫助の得票九十四票は右阿久津の得票におよばないから同原告は当選人たる地位を喪うものであるとの理由で同年十一月二十一日訴願人の申立を相当とし館岩村選挙管理委員会の決定を取り消すとの裁決をし、右裁決の要旨は昭和二十五年一月三日告示された。

二、しかしながら、被告委員会の右裁決は左の理由で取り消さるべきものである。

(一)(1)  「一、泰次」と記載された投票は地方自治法第四十一條第一項第二号に該当する無効投票である。同法は「議員候補者の氏名の外、他事を記載したものは無効である」と明らかに規定し、但書において「職業、身分、住所または敬称の類はこの限りでない」と許容事項を明確に限定した。よつて「一、泰次」の「一、」の文字記入は氏名の外の他事であることは判断論爭の余地なき客観的事実であつて但書において限定された許容事項のいずれにも該当しないこと明らかである。しかるに被告委員会の裁決は何等の証拠のない委員会の主観的推察判断が主体をなし、これを肯定せしむべく法規の趣旨を解し、遂に法規の存在を否定するに至つたのである。裁決書の内容について批判すれば、裁決書のへき頭において「本委員会の調査によれば(1)「一、泰次」と記載された投票は、その筆蹟筆勢等全く同一であつて自然的表現記載と認められるから有意の投票とは認め難い」と説明しているが、これは投票の調査に当つた被告委員会書記の報告に基ずく何等の根拠なき主観的推察判断にすぎない。最も嚴肅公正、客観的妥当性を旨として行わるべき選挙効力の判定方法として、かくの如き筆蹟鑑定墨色の判断方法によることは不当である。

(2)  『「一、云々」と書くことは物事を記す一つの形式、要領として一般的に行われている習慣であり、特に僻村においてその傾向が強い』と訴願人の主張を肯定し、『「一、」なる文字の明確な記載は認むるも、これを他事記載とは認め難い。』と説明しているが、これは事実に反する認識に基く誤れる判断である。すなわち金員、物件、條項等物事を記す場合、その書き始めに「一、」と書くことは一般的ならわしに相違ないが、およそ單に人名を書く場合氏名の上に「一、」と書く慣習は日本国内にはないと信ずる。当館岩村は如何に僻村といえども、かくの如き習慣は絶対にないことであつて、その証拠には選挙制が実施されて以來幾百度の選挙において氏名の上に「一、」なる文字の記載された投票は一票として出現した事実のないことによつても明らかである。被告委員会はこの記載を自然的記載と主張するも習慣と投票人の心理状態より考察するも最も不自然きわまる記載である。

(3)  「投票に馴れない選挙人が投票所のある種の重大なるふんいきに影響されてこのような記載を爲したものと推測される。」と説明しているが、被告委員会のこのような推測は投票を有効に認めようとするある種の観念に支配されたもので、かゝる考察態度および判定は地方自治法第四十一條第一項第二号の趣旨に反するものである。すなわち右規定の趣旨は無記名祕密投票の原則尊重にある。しかるに被告委員会は「選挙に不馴れの人物、投票所のふんいきの影響を受くる人物」として該票を投じた選挙人を半具体的に想定して係爭投票と認定すべき判断資料と爲したことは無記名投票の趣旨に反する。被告委員会は投票人の投票精神を尊重する余り法規の存在と他事記載の客観的事実を無視した裁決をしたものである。

(4)  「地方自治法第四十一條第一項第二号の規定の趣旨は選挙に有害なる事項、または雜事等の記載を禁止して選挙の公正を期するにある。しこうして選挙に有害なる事項、又は雜事の記載とは候補者に意思を通じようとする有意の記号的記載、あるいは冐涜的記載であつて、もしも記載がこのような程度に至つていないと認められるにおいては、投票の効力を認むべきである。」と解説主張しているが、この主張は該規定をあまりにも消極的に限定した解釈である。すなわち選挙に有害な事項、又は雜事の記載として認むべき認定による程度の如何によつて有効無効を決すべきものではなく、法規に明示する許容事項のいずれの項に該当するか否かによつて決定すべきが相当である。他事記載の投票は投票人の意思の如何にかかわらずたとえ投票人に投票以外に何事かを表示せんとする意思なきことを充分認められるにしても無効とすべきである。

(二)  『「阿久津大次」と記載された投票を候補者阿久津泰次に対する得票と認むるを相当とする。』との裁決は地方自治法第四十一條第一項第三号の規定に反するものである。すなわち被告委員会は阿久津大次と明記した投票の存在を確認し、候補者と同大字同号一七七番地に、しかも候補者と同一階層である第三階層の有権者として阿久津大次の実在を確認しながら「阿久津大次」と明記されたる票を阿久津泰次の得票と認定したのは右の規定を無視したものである。その理由として立候補制の趣旨によつて主張するも、立候補制を尊重して、候補者にあらざる実在人物の氏名を記載した投票を有効と決定したことは甚だしい矛盾といわなければならない。地方自治法第四十一條第一項第三号の規定は立候補制を採用した選挙にのみ必要とする規定であつて、その趣旨は立候補制の確立と尊重にある。被告委員会の候補者にあらざる実在人物氏名を記載した投票を有効と認めたことは、該規定の否定であり立候補制の否定である。要するに被告委員会は前項の場合と同様投票人の精神を尊重するあまり有効と認めようとする観念に基ずく推察判断に支配され客観的事実と法規の存在とに反する裁決を下したものである。以下裁決書の内容について批判するに

(1)  「立候補制を採用している以上、およそ投票は候補者に対して爲されたものと解すべきもの」との断定は候補者にあらざる者の氏名を記載した投票は無効とするとの規定の存在を否定するものである。

(2)  「阿久津大次が特に有名な人物でなく、又もと農地委員でもないのであるから、たとえ阿久津大次と明確に記載されていたとて、阿久津泰次の得票と認むべきもの」とあるが阿久津大次が候補者に比して有名なりや否やを如何なる根拠によつて認定するや、もしも候補者に比して有名であるか、或いはもと農地委員であつたとすれば該票を無効と認定せしや、これ明らかに被告委員会が投票の効力決定にのぞむに自己の主観的推察判断を主体となし、法規を從として解し、遂にこれを無視せる裁決を下すに至つたものである。

(3)  『「泰次」と「大次」は音読においてほとんど同一である』との主張も主観的判断であつて何等の根拠もない。「大」と「泰」は実質形態共に相異なる文字であり、「大次」と「泰次」は別個の実在人物である以上、該票を無効とするのが相当である。

(4)  被告委員会は最後に最近における行政実例を挙げてこれによつて該票の有効性を主張するも、該行政実例は本件の場合とその趣を異にするものである。すなわち被告委員会は本件と趣を異にする実例によつて主観的観念を肯定し、裁決を妥当化せんとしている。次の実例は本件の場合に該当するものにして候補者にあらざる実在人の氏名を記載した投票の無効なることを明確に示すものである。

候補者デナイ有名実在人ノ氏名ヲ記載シタモノ(一例武藤嘉一ニ対スルニ武藤嘉門、平野三郎ニ対スルニ平野増吉)ハ議員候補者デナイ者ノ氏名ヲ記載シタモノトシテ無効ト認メル(昭和二十四年一月七日岐阜縣選挙管理委員会委員長宛全国選挙管理委員会事務局長回答)

被告委員会の裁決を支配する精神は投票を有効に認めようとする観念であつて客観的に立証する根拠は全然存在せず、主観的判断推測が主体となつて客観的事実と法規の存在を無視するに至つた。選挙の精神にかんがみ投票精神を尊重して不明瞭な投票に対しては判断のでき得る限り有効と認むべきものであるが、その範囲は法規によつて明らかに限定されていて無限に推察判断によつて決すべきものではない。投票精神の尊重と法規の尊重とは矛盾すべきものではない。法規は原則規準であつて、あくまでも尊重遵守すべきものであつて、委員会が主観的判断を主体とし法規を從とするにおいては選挙の公正が破壞されることは必然である。因に阿久津大次は本件選挙当時三十七歳であり、農地調整法第十五條の二第三項第三号に該当する有権者である。原告甫助および訴外阿久津泰次も農地調整法第十五條の二第三項第三号に該当するものである。と陳述した。(立証省略)

被告代理人は主文第一項同旨の判決を求め、その答弁の要旨は次のとおりである。

一、請求原因中原告主張の「一、泰次」「阿久津大次」と記載した二票が無効投票であるという主張は爭うが、その他の事実は爭わない。また館岩村内に阿久津大次が実在していることも爭わない。

二、「泰次」と記載した投票は他事記載で無効であるとの主張について

原告は地方自治法第四十一條第一項第二号但書の規定により候補者の氏名以外の記載で許されるものは職業、身分、住所、敬称であるとし、「一、泰次」の「一、」の文字は氏名のほかの他事なることは判断論爭の余地ない客観的事実であつて但書の許容事項のいずれにも該当しないこと明確であると主張しているが、これは極端に文字に捉われた形式的解釈の結果であつて原告が主張する法の客観的或いは普遍性ということも、この文理解釈もしくは機械的判断の別語となす外はない。

おもうに、地方自治法第四十一條第一項第二号本文にいわゆる他事とは、候補者の氏名以外の一切の記載を指すものであることはいうまでもない。この点からいえば、同号但書に規定する職業、身分、住所、敬称といえども他事たるをまぬがれないのであるが、しかし法がこれ等を他事としない理由は、これらのものを候補者の氏名に付したところで通念上投票の公正性が阻害されることはないという趣旨に立つているからである。從つて本規定の適用に当つては職業、身分、住所、敬称という文字よりも、この通念上投票の公正性を阻害しないという根本趣旨が深く考慮されなければならない。さらに同但書は職業、身分、住所または敬称の類といつているのであつて、前記の四つの記載のみを他事としないという完全な意味の列挙規定ではなく、いわば例示規定的面も存するのであるから、記載が投票の公正性を阻害しないと認められる場合の拡張解釈の根拠はなお存するものということができる。

しこうして、投票の公正性を保持し得るに足る効力判定は、單に投票の記載に誤りがないか否かを規定の文字通りの適用による機械的判定によつては能くこれを充たすことができない。本規定に関する限り投票の公正性を阻害しないとは、形式的には記載が祕密投票の原則を犯さず且投票の嚴肅性を保持し得るものであるほか、実質的には選挙人の投票行使の権限を犯さない効力判定が省みられなければならない。

被告委員会は本係爭投票の効力判定に関しては以上の如き配慮を行いつつ反面また最近の裁判例に依拠して自由なる心証に基きこれを有効と裁決したものである。

被告委員会の裁決した理由に対する個々の攻撃について

(一)  投票記載の文字に関し筆蹟、筆勢等を鑑定して、投票の効力判定上の参考とすることは判定上も一般に採られるところであつて不当ではない。しこうして本係爭投票に関する限り「一、」は「泰次」と一体をなし、候補者に意思を通ずる爲の記載と認められるものではない。

(二)  「一、云々」と書くことが物事記載の一要領であることは何人も疑わないところであつて、このような記載上の慣例の存否は投票の効力判定上重要な関係を有するものといわなければならない。たとえば「○泰次」等の記載は、全く記載上の要領として認められないものであり、何人もこれをもつて有意の投票と認めず從つて有効とする心証は絶対に得られるものではない。

從つて被告委員会が、この記載上の一般的要領を投票効力判定の参考としたことは不当ではない。

(三)  投票所の設備は、投票の嚴正なる執行を妨げないために一定の規準によつて設けられ、立会人、監視員等が配置され、一種のふんいきを釀成するもので選挙人に緊張の念を與えることは事実である。この緊張は「一、云々」等の如き格式張つた表現心理に関係があるといいうるのであつて、これらの事情を勘案することも判例上(昭和七、六、一五行政裁判所判例)投票の効力は選挙の際における四囲の事情をも考慮して定むべきものとされており、敢て不当ということはできない。

三、「阿久津大次」と記載した投票は候補者の氏名を書かない投票として無効であるとの原告の主張について

原告は被告委員会が「阿久津大次」が候補者「阿久津泰次」と同字同号の地に居住する事実を確認しながら本係爭投票を有効と判定したのは法の規定を無視したものと攻撃するが、被告委員会の裁決は選挙の精神および立候補制の趣旨を適正に斟酌した適法の判定である。

原告の個々の主張については

(一)  原告は裁決書中「立候補制を採用している以上およそ投票は候補者に対して爲されたものと解すべきもの」とあるのは地方自治法第四十一條第一項第三号の規定を否定するものというが、前記により原告こそ機械的判断により規定の趣旨をじゆうりんせんとするものである。

(二)  「阿久津大次」が社会的に見て有名な人物であれば或いは本係爭投票は無効であると解せられる。すなわち原告が引用する前掲回答はこの点に関する実例であるが、同実例が武藤嘉一に対する武藤嘉門、平野三郎に対する平野増吉を無効としたのは前者は現任の岐阜縣知事であり、後者は平野力三の兄でありもと衆議院議員であつていずれも社会的有名な実在人であるからである。「阿久津大次」が候補者に比して有名なりや否やを如何なる根拠によつて認めるかとの原告の主張は本実例の趣旨を了解していないものである。

(三)  「泰次」と「大次」は音読において殆んど同一との裁決理由は主観的判断で根拠がないとの主張も「たい」と「だい」が類似している客観的事実に目を掩うものである。

以上要するに原告の主張は被告委員会の裁決取消を可能ならしめるほどの充分の理由を有しないと述べた。(立証省略)

四、理  由

昭和二十四年八月十八日福島縣南会津郡館岩村農地委員会委員の選挙が行われ、右選挙において選挙会は最下位の当選者を決定するに当り、候補者阿久津泰次および星甫助の得票を各九十四票の同数と算定し、くじによつて星甫助を当選者、阿久津泰次を落選者としたこと、選挙人である訴外芳賀輝久は右選挙の当選人である原告星甫助の当選の効力に関し同年八月二十五日館岩村選挙管理委員会に対し原告主張のような理由で異議の申立をし、同委員会は同月三十日異議申立却下の決定をしたこと、右訴外人はこれを不服として更に同年九月二十三日被告に訴願したところ、被告は同年十一月二十一日原告の挙示するような理由の下に訴願人の申立を相当とし館岩村選挙管理委員会の決定を取り消す旨の裁決をし昭和二十五年一月三日その裁決の要旨を告示したことおよび原告久一は本件選挙における選挙人であり、原告甫助はその候補者であることはいずれも当事者間に爭がない。

本件の選挙において選挙会が原告甫助および阿久津泰次の有効得票と認めた各九十四票については有効投票たることにつき爭がなく、本件における爭点は選挙会において無効投票としたのを被告が阿久津泰次の有効得票と認め同人の得票に加えるべきものとした二票、すなわち「一、泰次」、「阿久津大次」と記載した投票の効力についてであるから、まず「阿久津大次」の投票について審理判断するに、本件選挙の当時館岩村大字八総字居平丙百七十七番地に阿久津大次なる者が実在し、同人は阿久津泰次と同じく農地調整法第十五條の二第三項第三号に該当する有権者であることは被告の爭わないところであり、また同人は右選挙において立候補したものでないことも弁論の全趣旨によつて明白である。

ところで右選挙の当時施行の農地調整法第十五條の八により準用せられる地方自治法第四十一條第一項第三号の「候補者でない者の氏名を記載した」投票はこれを無効とする旨の規定は選挙につき候補者制度を採用したことを前提とするものであることはいうまでもないところであるが、しかし特定の投票が「候補者以外の者の氏名を記載したもの」にあたるかどうかは、各具体的の場合につき愼重に檢討してこれを判定しなければならないところであつて、本件係爭の「阿久津大次」と記載された投票の如きも、候補者「阿久津泰次」の外に同村に「阿久津大次」なる者が実在し、しかも同人は候補者阿久津泰次と同じ農地調整法第十五條の二第三項第三号の階層に属する者であるからといつて、直ちにそれが候補者以外の「阿久津大次」の氏名を記載したものとみることは早計たるを免れない。けだし立候補制を採る選挙制度の下においては、選挙人は候補者中の何人かに投票する意思で投票したものと推測するのが実驗則に合するゆえんというべきであるからして、投票に記載された氏名と候補者の氏名との間に多少符合しない点があるにしても、特に反対にみるべき事情のない限りそれは候補者に投票する意思で記載されたものとみるのを至当とするからである。しかも本件における「阿久津大次」と記載した投票は、氏は全く候補者阿久津泰次の氏と同一であり、名は「大次」「泰次」で文字こそ異るとはいえ、「大」と「泰」とがその語音において似通つていて「ダイジ」と「タイジ」とは発音上まぎらはしい点などから考えて、本件「阿久津大次」と記載した投票は特段の事情のない限り候補者でない「阿久津大次」の氏名を記載したものとみるよりも、むしろ候補者である「阿久津泰次」の氏名中の一字を誤記したものと認めるのが相当であり、原告等の全立証によつても右認定を妨げるに足りない。從つて右の一票は候補者阿久津泰次に対する有効投票として同人の得票に加算すべきである。以上と異る見地に立つて、右投票が候補者でない阿久津大次の氏名を記載したもので無効投票であるとする原告の主張は採用し得ない。

しこうして選挙会が阿久津泰次の有効得票としたことに爭のない前記九十四票に、同人の有効投票とみるべき右「阿久津大次」と記載した一票(選挙会が無効投票として扱つたもの)を加えると同人の得票数は九十五票となり、すでに原告星甫助の得票数九十四票よりも多いことが計数上明らかであるから、本件係爭の他の一票、すなわち「一、泰次」と記載した投票が、果して他事記載の投票として無効とさるべきであるかどうかの点につき判断するまでもなく、原告星甫助と阿久津泰次の各得票数が同一であるとして、くじにより原告星甫助を当選人としたことは失当であるといわざるを得ない。從つて前記訴願人の訴願を理由ありとして認容した被告の裁決は結局正当であり、これが取消を求める原告等の請求は理由なしとして棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 猪狩眞泰 畠沢喜一)

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